ある老人の答え
老人がベンチに座っている。
杖を手に持ち、腰は曲り、つばの広い帽子を浅く斜めにかぶっている。帽子をかぶっているのは薄くなった頭髪を隠すためなのだろう。真っ白な頭髪は顔の両側に申し訳程度にくっついている。
顔には深いシワが刻まれており、老人がかなりの高齢であることを物語っている。老人が歩いてきた道のりを、シワが表現していると言ってもいいのかもしれない。
そこに一人の若者が通りかかった。
青春映画から抜け出てきたような明るい服装と、快活な雰囲気が歩いている様子からも伝わってくる。年齢は20代前半だろうか。
若者は老人に興味を持ったのか、立ち止まるとベンチに座り、老人に話しかけた。
ひとしきり世間話をしたあと、若者は老人に一つの質問をした。
「貴方の人生で一番楽しかった時期はいつですか?」
若者が期待した答えは、何だったのだろうか。
老人の若い頃の武勇談をだろうか。
それとも老いぼれた老人をからかうつもりだったのだろうか。
だが、老人が答えた言葉は若者の予想を裏切るものだった。
「今じゃよ。今が一番良い」
この話をどこで耳にしたのかは忘れてしまいました。
いくつになっても、今が一番良い、と言えるような生き方をしましょう、という寓話です。
確かに、昔は良かった、という人は、良い人生ではなかった、と言っているのと同義なのかもしれません。今の自分は、自分がいろいろな選択肢を選んできた結果でしょうから。
いくら年をとっても、たとえ老人になったとしても、今が一番良い、と自信を持って言える人生を送りたいと願いつつ・・・